イエスタディ

music
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2019年公開

トレインスポッティング」のダニー・ボイル監督とビートルズってんだから、期待は大。
なんせ「ボヘミアン・ラプソディ」でこういうのアリだなアリって味をしめてたからね。

そいで「ビートルズの無かった世界でビートルズの楽曲を歌う」という設定、面白くなりそうでしょ。期待するよね。

鳴かず飛ばずのシンガーソングライターの主人公。名前はジャック。まったくさえない。
ミュージシャンの道はあきらめようとした時、交通事故にあう。バスに跳ね飛ばされるんだ。自転車ごと。この事故の瞬間、地球規模で謎の停電が起きていた。

ジャックは大けがをして前歯も失う。まったくさえない。
しかし彼はもう今までの世界ではない、「ビートルズが出現しなかった世界」にジャンプしてたわけだ。

快気祝いにプレゼントされたギターで「イエスタディ」を友達の前で演奏する。
みんなびっくりしたように演奏に聴き入りこう聞く「いつそんな素晴らしい曲をつくったの?」
は?何言ってんだよこんな有名な曲。

でもここはビートルズのいない世界。

設定が面白い。
イエスタディ」はポール・マッカートニーが夢のなかで浮かんだと言っている曲で起きてからあわてて書き留めたメロディーだそう。「あまりにすらすらと自然に浮かんだので誰かの曲じゃないかと思って、周りの皆に聴かせたけど誰もしらなかったから自分が作ったとわかった」という曲。
まるでこの映画の設定にはうってつけだ。ビートルズをよく知ってる人が書いたシナリオなんだろう。
なんてったってこの「世界で最も多くカヴァーされた曲」といわれているこの曲を誰も知らないっていうんだから、痛快なつかみだった。

ジャックはみんなで自分をだましていたずらしてるんだろうと怒る。まぁそうだろね。
で、家でググるわけよ「ビートルズ」ってね。
するとジョンポールリンゴジョージもヒットせず、甲虫(beetle)しか出てこない。クワガタの写真。
Oh!ビートルズがいない世界!僕だけがビートルズの曲を知っている!!




この映画はどうもビートルズファンから評価が二分しているようだ。

ビートルズのよさが全然説明されてない!ビートルズの革新性などみじんもわかっていない!

かたや、

ビートルズの普遍性やバリエーションを楽しめた。ビートルズの楽曲がいかに人々を幸せにしたかってわかる映画!

ほかにもジョン・レノンが生きている世界、ダコタ・ハウスで凶弾に斃れなかった世界。
その年老いたジョンも(似てたな)賛否両論だったようだな。「あんなふうにジョンを描くなんて!



僕はたしかにビートルズマニアじゃない。ただの洋楽マニアだ。ただの洋楽マニアだからビートルズのほとんどのアルバムを持っているし、どの曲も知っている。ビートルズの詩集も2冊持っている。
死ぬまでに編みたいと思っている「我がALL TIME BEST 100」の選曲のなかでも数曲必ず入れるだろう。

で、この映画はといえば大いに有りだった。僕的には。

この映画はビートルズを使ったラブ・コメディだ。ビートルズを解剖してその良さを解説する映画じゃない。あたりまえだがボヘミアンみたいな伝記物じゃない。
ただビートルズの楽曲への愛着はとても感じられるし、いいファンタジィだと思った。

僕もむかしむかし若かりし頃、曲をつくったりバンドやったりしてた頃、やはりこれに近いファンタジィを持ったと思う。夢の中で見たかもしれない。
そのファンタジィをとっかかりにした、ビートルズを知っている世界の観客だからこそくすっと笑えるコメディだったと思うな。

でもマニアにはなにか物足りなかったり、扱いが雑に感じるのかも。「こんなんでビートルズを語るな」ってね。
リンゴは笑いそうだけどね。

老いたジョン・レノンのシーンだって僕は好きだ。
ビートルズに世界が熱狂しなければ、狂わなければたしかにジョンは長生きしたかもしれない。それはわからないけど、そういう世界もあったかも知れないと考えるとしみじみするよ。ポールとも年老いても仲良くやれてたかもな。
ジョンが主人公に「複雑だったが幸せだった」と言い聞かせるとこもじんとした。
しかし船乗りだったとはな。

つうか”この世界”ではタバコもないんだ。すると肺がんで亡くなったジョージもどこかで生きてるかもしれないね。


なんにしろこの映画はビートルズ愛を語る映画ではない。どこまでビートルズを知ってるかを自慢し合う映画ではない。
そんなとこにこだわるとハラもたつのかもしれない。でもビートルズの偉大さを誰かに伝えたかったらCDを貸してやればそれでいい(ストリーミングじゃだめだ。しっかりアルバムを意識して聴いてもらいたい)

この映画はそういう設定をつかった娯楽映画さ。ラブ・コメディじゃないか。
ビートルズは偉大なるスパイスだ。

でもねビートルズがなかったらとイマジンしただけで、きっとビートルズのファン、いや音楽ファン、もしくは全ての今生きる人々は、映画の登場人物がいうように「ビートルズのいない世界はたまらなく退屈」だったろうと思い知るぞ。
この映画は「ビートルズがいなかった世界で僕だけ彼らの楽曲を演奏できる」というアイデアがでた瞬間に勝ちだったのだ。
そしてラブ・コメディにしたことでマニアだけしか楽しめないような映画にならなかったってわけだ。いつの時代のいつの世界の人も楽しめるじゃないか。
僕もビートルズの楽曲が自分にいかに普通にしみついているかを感じずにはいられなかった。


と、ここまではこの映画の構想をほめてきた。
もう少し映画として考えてみる。
まぁラブ・コメディだから、難しい話はすっからかんと抜きにしたとして、設定以外のストーリー的にはアラララというのはしかたないのかもしれない。予定調和のハッピーエンドもね。

しかし監督がダニー・ボイルだから、期待はしてしまうじゃないか。
もう少し毒があってもよかったのにというのは勝手な思い。まぁ「トレインスポッティング」とは真逆な世界なんだよな。
でもねビートルズがほんとに生まれなくて、あのジャックが歌うだけの世界だったのなら現実にはひどくがっかりな世界だったろう。残念な世の中だったと思うぜ。
ビートルズが残したのって美しいメロディだけじゃないからね。

そしてこの主人公の、素朴さはいいとして、この彼女を泣かせるしまりのなさは非常に気に障る。個人的にだよ。俺が女だったら絶対感情移入できないし、男だからなおさら。
元マネージャーでずっとこのさえないジャックを慕ってきたエリーが思いのほかかわいくてね。特に電車が横切るおんぼろスタジオで「I Want To Hold Your Hand」や「I Saw Her Standing There」を一緒にレコーディングで歌って踊ってるとこよかったなぁ。だからなおさらこの男むかつく。
こんないい娘がこんなダメでいらつくほど煮え切らないやつに恋なんてすんなよ!

けどあんがいダメな男にはまっちゃう女の子っているよね。
ギャバンとくっついて幸せになれるかどうかも微妙だったけどね。

エド・シーランが本人役のスーパースターで出てるけど、これはすごいよかったな。オタクっぽくて。自虐的で。そしていい演技だった。
「こんな日が来ると思ってたよ」「ジャックはモーツァルト。僕はサリエリだ」って言わせるなんてね(笑)

あ、そう「ヘイ・ジュードは素晴らしい曲だけど、ジュードはダサい。変えたほうがいい、いいの思いついたんだ」とエド・シーラン

これは笑った。「この案はタダでいいよ」だって。

歌は全曲主人公のジャック役のヒメーシュ・パテルがうたっている。最初はキツいかなと思ったけど「Back in the U.S.S.R.」から楽しめた。ホテルの上で演奏する「HELP」もいろいろ彷彿とさせてよかったですぜ。しかもパンキッシュで悲壮。
でもサントラは欲しくないな。ビートルズを聴こう

マイ点数 8/10点

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